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海から遠い滝に、塩が出る
志原村の橋町から西へ三町ばかり行った、大道のかたわらに滝があります。高さ四間ばかり、長さ八間ばかり。地誌はまず、その寸法だけを書きます。
次に、この滝の何が変わっているのかが来ます。滝の中ほどの二間ばかりの範囲に、いつも真っ白な塩のようなものが、ひとりでに出てくる。なめると、その辛さは海の塩と変わらない。だから土地の人は、むかしからここを潮滝と呼び習わしてきた、というのです。
撰者はそのあとに一行だけ、自分の驚きを書き添えました。海辺からは三十町あまりも離れているのに、こんなふうに塩気が出るのは不思議な所である、と。三十町はおよそ三キロメートルです。地誌の書き手は、伝えを写すときにはめったに感想を挟みません。ここで挟んだということは、実際に見て、そして説明が付かなかったということでしょう。
項の後半には、別の書からの引きが置かれます。『壱岐巡』という書は、同じ場所を少し違う言い方で記していました。道ばたの岸が十間ほど、高さは一丈ほどある。その土をなめてみると塩辛く、色は紫である。黒や赤の色も混じっている、と。
二つの記述を並べると、見ているものの形が変わります。名勝図誌は「滝の中ほどに塩のようなものが出る」と書き、『壱岐巡』は「岸の土がしょっぱく、紫がかっている」と書く。前者は水の落ちる筋の話に、後者は崖の土の話に読めます。同じ場所を、水として見るか土として見るかで、書き方が分かれたことになります。
撰者はどちらが正しいとも書きません。自分の見た寸法を先に置き、土地の人の呼び名を記し、驚いたと一言添えて、別の書の記述をそのまま並べる。判断を下さないまま、材料だけを二つ揃えて次の項へ進みます。読む側に残るのは、海から遠い崖に塩の味があった、という事実の記録だけです。
原文から
その中ほど二間ばかりの所、常に真塩のごとく自然に出現するものあり。
味のからき事、海塩のごとし。
海辺よりは三十余町も隔たりて、かく塩気の出でぬ事は奇しき所なり。
この土、舐めて見るに醎く、その色は紫なり。