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犬島に埋めた金

半城の沖の小さな島には犬の墓があり、鳴いた犬を切り殺した長者の話から島の名が付いたと伝わります。

1861 年までに書かれた記述をもとにしています。いまも同じものがあるとは限りません。所在と地図は各スポットのページにあります。

半城邑の申の方に、犬島という小さな島があります。地誌はまず測ります。東西三十間、南北十八間、周囲六十三間半、高さ五間。歩いて一周できるほどの島です。その島の上に、犬の墓と言い伝えられている場所がある、と書かれます。

里の人の話は短いものです。むかし頼母という所に長者がいた。金をこの島に埋めるとき、犬が来て鳴いた。人に知られては困ると思って、その犬を切り殺した、と。それが犬の塚だと言い伝えるので、島の名になった、と結ばれます。

この伝えには、埋めた金がどうなったかが書かれていません。掘り出したとも、まだあるとも言いません。話が終わるのは、犬が殺されて塚になったところまでです。宝の在りかを語る話であれば、ふつうは金のほうが主役になります。ここでは、島に残った名のほうが主役です。

項はそのあと、島のまわりへ移ります。犬島の沖に松崎という岬があり、東西四十間半、南北三十間二尺。犬島からは十四間しか離れていません。海に突き出した岬で、松の木立が古びていて眺めが良い、と書かれます。その南に黒瀬という瀬があり、色が黒いのでそう呼ぶのだろう、と撰者は書き添えます。潮が引いたときの高さまで測ってあります。

島の上には松崎社があって、例祭は八月十三日、境内は島ぜんたいでした。犬の塚があると伝える島が、そのまま社の境内になっています。

松崎の北の入江は塩竈浦といいます。この浜でむかし塩を焼いた所だと言い伝えるが、いまはその煙さえない、と地誌は書きます。名の由来になった仕事が、その名を残したまま絶えていたわけです。

そして項の最後に、歌が一首だけ置かれます。『古今和歌集』から、貫之の歌です。君がいなくなって煙の絶えた塩竈の浦は、見渡すかぎり寂しく見える、という歌でした。塩を焼く煙がもう立たない浜の名に、煙の絶えた浦を詠んだ古い歌を並べる。撰者は説明を付けずに、そこで項を閉じています。

犬の塚と、松の岬と、煙の絶えた浜。三つとも、いま何かがあるという話ではなく、かつて何かがあったという名の話です。この項に並んだものは、どれも名だけが残っています。

原文から

島の上に犬の墓といいつたえし所あり。

巻之十五 石田郡半城邑之部(犬嶋)

里民いう、むかし頼母という所に長者ありしが、金をこの島に埋めし時、犬が来りて鳴きければ、人に知られん事を思いてその犬を切り殺したりと。

巻之十五 石田郡半城邑之部(犬嶋・里民の伝え)

その犬の塚とぞいい伝えける故、島の名となれり。

巻之十五 石田郡半城邑之部(犬嶋・里民の伝え)

この浜にてむかし塩を焼きし所といい伝う。

巻之十五 石田郡半城邑之部(犬嶋・塩竈浦)

出典: 『壱岐名勝図誌』文久元年(1861年) 巻之十五 石田郡半城邑之部。いずれも保護期間の満了した著作で、現代語に起こしたのは ikijima.com です。

ほかの読み物: 島でいちばんの石を切る / 海から遠い滝に、塩が出る

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